Masuk第一章【紅蓮のメイドは夢を抱く】
ある日の日本。曇天の町並み。
家族葬向けの小さな斎場の入り口に、葬儀が執り行われる人物の名前が書かれた電子看板が置かれていた。
【故
享年二十一歳。
佐伯 良太は、あまりにも短い生涯を終えてしまった。
生まれは都会。幼少の頃より両親は不仲で、小学生の頃に二人は離婚した。
親権を有する母親には虐待癖があり、母子家庭ということを加味すれば、家庭環境は最悪と言わざるを得ない。
朝食の用意は自分で行い、母が朝帰りする前に学校へと向かう。
恵まれない環境は自らの人間関係にも影響し、友人と呼べる相手は皆無に等しかった。
学校側は彼の置かれた状況を把握しつつも、有効な手段を取ることはできずに実質放置状態である。
朝早く家を出て、できるだけ遅く帰宅するという日々を送っていた良太。
このような生活は、得てして人格形成に悪影響を及ぼす。
小学校高学年の頃には不登校も目立ち、周りからは悪童として
中学生になってからの良太は、一部の集団からいじめの標的とされていた。
良太の粗暴な外見が幸いしたと言えるのか、暴力行為は周りが
代わりに、その多くは表に出ないような陰湿ないじめばかりだ。
だが他人に期待も信頼も抱いていなかった良太にとって、そのような行為に呆れ以外の感情を抱くことはなかった。
結局いじめも二年ほどで終わり、周囲が受験を意識する頃には良太へ意識を向ける者など誰もいなくなっていた。
まさしく文字通り、孤独な学生生活である。
◇
転機が訪れたのは、高校二年の春だった。地元の底辺高に通っていたある日のこと、夜中に外出した母親がその日を境に蒸発したのだ。
前日に父が病死したという報告があったため、それが原因だったのかも知れない。
当初は事件性を疑われるも、手掛かりもなく表立った捜索は打ち切り。
天涯孤独となった良太は父親の葬式にも顔を出さず、この先も変わらない孤独な生活を続けていくはずだった。
だが保護者を失った良太は、疎遠になっていた父方の祖父母の家へ預けられることとなった。
そして良太にとって予想外だったのは、久しぶりに会った祖父母が自分に対し謝罪してきたことだ。
今まで手を差し伸べることができなかったこと。真剣に所在を探すべきだったこと。
それは荒みきった良太に向けられた、初めての思いやりだったのだろう。
しかし良太にとってはあまりにも遅すぎた言葉であり、結局は彼らと距離を取る生活を送っていた。
◇
夏休みのある日。その年は数日前から、父の弟にあたる叔父が家族と共に祖父母宅に帰省していた。
この日も朝から大人たちは外出中。
良太は叔父の子供である兄妹と共に、畳の敷かれた居間で留守番をしていた。
「良太にーちゃん、これ見ていい?」
人懐っこい笑顔で語りかけてきた少年の手には、初めて見る変身ヒーローが主役の特撮番組のDVDケースがあった。
このような児童向け番組に触れたことがない良太にとって、特撮の知識は有名な作品の名前くらいだ。
少年が持っていた作品については、名前すらも知らなかった。
「貸してみ」
自身を怖がる様子を見せない少年に感心しつつ、無下に断ることもないと思った良太は少年からケースを受け取る。
そしてテレビの前へと座り込むと、ディスクを取り出しテレビ台の棚に置かれた型落ちプレイヤーにセットする。
トレイを戻すとすぐにテレビの前から座卓の前に移動し、再生ボタンを押す。
画面には制作会社のロゴやテレビを見るときの注意が映された後、オープニングなどを挟まずに本編が開始される。
(これ見ている間は、チビ達も静かにしてるだろ)
兄妹が画面にくぎ付けになっていることを確認し、良太は席を立とうとする。
その間も番組本編は進み、昆虫か何かをモチーフにした怪人の前に、主人公の青年が対峙するシーンが映る。
何気なく子供たちが見るテレビ画面を眺める。
思い起こせば、これが良太にとって初めて目にする特撮番組だった。
画面の向こうで自らの信念、決意を胸に戦うキャラクター達。
ヒーローと怪人の戦闘という視覚的娯楽と、人々とのふれあい。自分のあり方に対する葛藤。
空想。綺麗事。子供だまし。
高校生ともなればそれくらいの感想を抱き、興味を持つこともなかっただろう。
だがこういった経験をしてこなかった良太だからこそ、素直に響くものがあったのかも知れない。
子供向けの番組だと……ただの作り物だと思っていた良太にとって、そこにあったドラマには少なからず衝撃を受けていた。
その後は子供たちと共にじっくり番組を見続けていた。
一巻分を見終わる頃には祖父母と叔父夫婦が帰宅し、付きっきりで子供たちの面倒を見てくれていたことを感謝された。
初めて特撮に触れた時の出来事は、良太にとって数少ない良い思い出として胸の中に残り続けていた。
だからこそ、卒業後の進路を考えたとき、この夏の思い出が真っ先に頭をよぎったのだろう。
動画配信であの夏に見た番組を最後まで見て、画面の向こうで戦う主人公たちに強い共感の念を抱いていた。
フィクションの中で、自らの信念を貫こうとする彼らに憧れていたのだ。
いつしかその願いはアクション俳優という夢に変化し、高校卒業後は養成所のオーディションを受けつつ、トレーニングとバイトの日々。
もちろん多くの特撮番組を見てきた。時間の許す限り、レンタルや配信を駆使しつつあらゆるものを。
やがてその努力が実り、有名な芸能事務所が運営する養成所のオーディションに合格することが叶った。
良太にとっては初めて真剣に努力し、そして結果を掴み取った。
それが二十一歳。春のことだった。
◇
養成所への入所を間近に控えた、ある日の夕方。上京前最後のバイトを終えた良太は、通い慣れた道を一人歩いていた。
いつにも増して赤い夕焼け空は美しく、駅前商店街は帰路に就く人々で賑わう。
バイト先でもらった
紙袋は四つ。二つずつを両の手に分けて持っている。
(これ、ばーちゃんの好きな菓子だな)
こんな感じで、時折紙袋の中身を確認しながら祖父母の待つ家に向けて歩く。
駅前から徒歩十分ほどの位置にある祖父母の家は、外出の際便利で助かっている。
帰路の中で思い浮かべるのは、菓子を受け取って喜ぶ祖母の姿。
過去の自分を思えば、こんな人間関係が築けることが信じられなかった。
それも明確な目標……なりたい自分がはっきりしたおかげで、ここまで変わることができたのだ。
そのきっかけを与えてくれた祖父母に、良太は強い感謝の念を抱いていた。
しかし、もちろんこれも通過点の一つだ。
キャリアを積み、いずれはフィクションの中に生きる登場人物として活躍したい。
一人前の俳優になって、自分の面倒を見てくれた祖父母に恩返しがしたい。
ギリギリのところで踏ん張ることができた自分を、褒めてやりたかった。
再び前を向いたその時、歩道の先から貫くような悲鳴が耳を
すぐさま声の方へと顔を上げると、歩道の向こうで倒れている男女の姿がある。
そして二人の前に、両手で包丁を構えた不気味な男が立っていた。
手にする包丁には、既に赤いものがべったりと付着している。
路面にもどす黒い液体が広がり、夕日によって赤く輝く。
男のうつろな目は、近くでへたり込んでいる制服姿の少女に向けられていた。
通り魔。
荒れた過去を持つ良太にとって、このような暴力沙汰は珍しくない。
しかし、傷害事件に直面したのはこれが初めてだった。
こういう場合の対応は分かっている。真っ先に逃げ、警察を呼ぶのだ。
一般人が凶器を持つ相手に、素手で対抗できるはずがないのだから。
だが、この時の良太は少しだけ強気になっていたのだろう。
これまでの荒れた生活の経験とヒーローへの憧れ。夢に近づけたという高揚感。
今駆け出せば、倒れている少女を助けられるように見えたのだ。
良太はヒーローに憧れていた。
だから、手を伸ばせば助けられると考えてしまっていた。
気づけばその場から駆け出しており、今にも少女に襲い掛かろうとする男に飛びかかる。
その後のことはあまりにも一瞬で、良太自身何が起きたのか理解することも出来なかった。
……ただ一つ。
この痛みは、フィクションなどではなかった。
多分、刺されてはいけない場所を刺された。
包丁を押さえ、
(刺されたトコ違うだけで、血ってこんな簡単に流れちまうものなんだなぁ)
なぜか冷静に、そんなことを考えてしまう。
眼前に広がる路面は、いつの間にか自分の血で真っ赤に染まっていた。
だがすぐに目の前が霞み、暗くなる。
(包丁、奪ったのは、手柄かな)
体からは熱が失われていき、意識も暗く遠のいていく。
既に周囲の音も聞こえておらず、強烈な寒さと孤独感が彼を
(……寒)
意識が途切れる直前、懐かしい孤独の感覚を思い出す。
それが、佐伯 良太の最期だった。
礼拝堂を後にしたアデーレは、一人バルダート家の屋敷に続く坂道を上っていた。 この道は港から続く大通りで、馬車も通れるよう頑丈な石畳によって舗装されている。 バルダートのお嬢様と最悪の出会いを果たしたのも、この場所だった。 バルダート家がこの地に別邸を持ったのは、避暑のためである。 シシリューア島は周囲の島々に比べると、地熱の影響により気温が高いらしい。 だからロントゥーサ島の、風通しが良く港からも近い土地に別邸を建てたそうだ。 (だからって、歩いて通うのにこの坂はちょっと大変だ) 額に汗をにじませながら、アデーレは屋敷へ続く坂道を上る。 勾配は緩やかだが、それでも今日の晴天はほどほどに疲労を蓄積させてくる。 これが夏本番になると、気温はさらに上昇する。 こうなると、たとえ実家が近いとはいえ、屋敷の使用人部屋で住み込みという選択肢も出てくる。 なお、その場合の父の反応は、推し量るまでもなく容易に想像がつく。 そんな、アデーレ・サウダーテとしての日常。 これまでを振り返り、そしてこれからに思いを馳せ……。 時折思うのは、この先自分はどういう人生を送るのだろうということだ。 今はまだ、佐伯 良太として歩んだ時間の方が長い。 だが後十年も経たずして、アデーレは良太の享年を超えることとなる。 今後、アデーレとしてそれらしい人生を送るのだろう。
その日は一日、屋敷の掃除に明け暮れることとなった。 拭き掃除に掃き掃除、使われていなかった家具を磨き本家から運ばれた食器を磨き……。 幸いだったのは、夕暮れまでに帰宅することが許されたことだろうか。 「そう。そんなに急なお話だったの」 テーブルに突っ伏すアデーレを、食器を片付けるサンドラが心配そうに見つめる。 いつもは率先して家事を手伝うアデーレだが、慣れない重労働で動く気力を失っていた。 「家事ならって……正直、なめてた」 「さすがバルダート家のお屋敷だな。掃除一つ取ってもうちの比じゃなかったんだね」 顔を上げずに話すアデーレの肩を、ヴェネリオが優しくさする。 「それだけじゃないよ。あんなに広いのに人が少ないし」 メリナと仕事を進めていくうちに、アデーレは気づいたことがあった。 それは、メリナのような経験を積んだベテランの使用人が、一人か二人の新米使用人を連れて仕事をしてたということだ。 ベテランの使用人は、おそらくメリナを含めて十人ほど。 彼女達が率いる新人は、同年代の顔見知りばかりだった。 顔見知りが多いのは気楽だが、未経験者ばかりでは手際が悪い。 そうなると仕事量は増え、一人ひとりの負担も大きくなる。 その結果が、帰るなり息も絶え絶えのアデーレというわけだ。 (メリナさんもそうだけど、先輩たちの手際
その日の夜……。「えっ、ドゥラン様のところへご奉公に行くの?」 ランプの明かりに照らされたダイニングで、家族と夕食を囲んでいたアデーレ。 向かい側に座る両親との話題は、昼間のメリナと交わしたやり取りだ。 真っ先に反応したのは母のサンドラ。 アデーレは母親似で、特に背中の辺りまで伸ばした青交じりの黒髪はサンドラ譲りだ。「やってみないかって誘われただけだから。確かに六年前のことはあるけど……」 六年前のことは、島の者なら誰でも知っている。 大貴族バルダート家の一人娘に楯突いた農家の娘。 そのことで忌諱されるなどといったことはなかったが、良くも悪くも度胸がある子だと一目置かれることとなった。 あの頃は良太が物を知らなかっただけのことで、バルダート家がどういった家柄なのかもわからず口を挟んでしまった。 お嬢様ことエスティラの父、ドゥラン執政官。 執政官とは、ここシシリューア共和国における国家元首なのだ。 後にそのことを知ったアデーレ……というより良太は、いよいよ国のトップの娘に口出ししてしまったのかと、色々な意味で自分に感心してしまったものだ。 だが、後悔はしていないし、自分が悪いことをしたという認識もない。 何よりメリナと知り合えることも出来たのだ。今ではいい思い出だろう。一応は。「父さんは悪くないと思うよ。数年働けば、転職の際の紹介状も書いてもらえるらしいじゃないか」「そうは言ってもあなた、もしもエスティラお嬢様に目を付けられでもしたら」「なあに、あのドゥラン様のご息女だよ。六年も前のことを根に持つようなことはないさ」 手にしていたスプーンを皿に置いて、アデーレの顔色をうかがうサンドラ。 楽観的なヴェネリオに対し、やはりサンドラは娘の身を案じているようだ。「メリナさんが、一般の人はお嬢様に会うことはめったにないって」「そうかもしれないけど……やっぱり心配だわ」 サンドラのため息が、アデーレの耳に残る。 過保護を人の形にしたようなヴェネリオほどではないにしても、サンドラも人並みの母親以上の思いをアデーレに抱いていることが伺える。「まぁまぁ。それで、アデーレはどう考えているんだい?」「私は……一度屋敷に行ってみようと思う」 「そうか」とつぶやき、ヴェネリオが姿勢を改める。 アデーレの言葉を聞いたサ
良太の記憶を取り戻して、六年の歳月が過ぎた。 あれからアデーレの性格は、徐々に良太の人間性に引っ張られてしまった。 しかし彼女も元来おとなしい性格だったためか、周囲から違和感を抱かれたことは数えるほどしかない。 また、両親に恵まれなかった良太とは違い、アデーレの両親であるヴェネリオ、サンドラ夫妻は深い愛情を持っていた。 一人娘故の溺愛ともいえるが、農民なりに女性として満足のいく生活を送らせてあげようと、アデーレに着飾る機会などを与えてくれた。 今のアデーレは、良太が送った二十一年の人生と地続きになったような状態だ。 純粋なアデーレ・サウダーテとして育てられた十年の月日があったためか、幸いにも性別が変わったことを受け入れるのにそれほど時間が掛かることはなかった。 むしろ、そうでなければ……そんなことをふと思いつつ、着替え中の自身を鏡に映す。「中身、男のままだったらまずかったなぁ、これ」 そう言って、肌着越しに自分の胸に手をやる。 佐伯 良太としての率直な感想は、でかい。町でも上の方の大きさである。 おかげで町の男共の視線を集めるし、コルセットやら何やらは息が詰まる。 自分が女性であるという自覚があるからまだよかったが、着替える度に毎度ガチガチに抑え込むのは苦痛だった。 また、身長もかつての良太に比べれば低いとはいえ、女性としては高い方だろう。 東洋人では考えられない脚の長さについては、初めて気づいたときに感動してしまったほどだ。 とはいえ、男の頃の生活を思い出すと、今の身だしなみに気を遣わなければいけない生活は窮屈で仕方がない。 髪は伸ばした方が似合うと母に言われ、現在は長い髪を腰の上あたりで切りそろえている。 これを毎度キャップが収まるようまとめるのが、とにかく面倒なのだ。 大体これでは伸ばした意味があるのかと、アデーレとしては常日頃疑問に思っていた。「アデーレ、ちょっと来てくれないかしらー?」 扉越しに聞こえる母の声。 さすがに下着姿のまま自室を出る訳にもいかない。「ちょっと待っててー」 扉に向けて返事をするアデーレ。 そのまま周囲の衣服を手に取り、手早く朝の着替えを済ませるのだった。 ◇ 十六歳になったアデーレの仕事は、主に農作業の手伝いだ。 サウダーテ家の農場は港町
石灰の塗られた白い建物が並ぶ、石畳の大通り。 道の両側には店舗が並び、軒先に日よけを張り、野菜や日用雑貨が陳列されている。 路肩に積まれた木箱や樽。道行く人々。 日常の雑多な風景の中に、人々が取り巻く生活空間が生まれていた。 その中心にいるのは、眉を吊り上げ腕を組む、いかにも不機嫌そうな金髪の少女だ。 周囲の人々が着るくたびれた服とは違う、フリルをこしらえたピンク色のドレスは、彼女が高貴な家柄の人物であることを物語っている。 さて、そんな少女の前には、十代後半と思われる少女が膝立ちになり、何かを懇願している様子だった。 彼女の姿は黒いワンピースにエプロンドレス。白いキャップを被った明るい茶髪。 おそらくは、目の前の少女の家に仕える使用人だろう。「私のやることにケチ付けるとか、メイドのくせにっ」「で、ですが奥様からの言いつけですので、どうか」「いーやーだー!」 懇願する使用人に対し、お嬢様は耳を押さえてそっぽを向く。 状況の分からないアデーレだったが、それだけでお嬢様がわがままを通そうとしていることは分かる。 外見からして、彼女はまだ十歳に満たないくらいの子供だろう。 そうなれば、きっとアデーレと同じぐらいの年齢だ。 ただしこちらの精神面は二十歳過ぎの男でもある。 わがままを通そうとするお嬢様の姿に、内心呆れていた。「ありゃあ、バルダート様んトコの娘さんか?」「まーたお嬢様の癇癪かぁ」
最初に感じたのは、吹き抜ける潮風だった。 鼻をくすぐる海の匂い。全身を包む柔らかな感触。 とても穏やかに、体が揺れる。 (……あれ?) それは、あまりにもおかしな感覚だった。 違和感が脳内を駆け巡り、急ぎ周囲を確認するため目を開けてみる。 眩しさに目を細めた後、目の前に広がっていたのは楽園を思わせる美しい海。 海底の砂が見えるほどの透明度と、青と緑の混じるエメラルドグリーン。 そんな海を見渡せる白い砂浜の上に、脚を伸ばして座っていた。 しかし、その脚は小さく細く色白で全く見慣れないものだった。 手に付いた砂を払おうと、視線を下に移す。 ……見慣れない服。髪も長くて鬱陶しさを覚える。 手のひらは小さく、これまでのトレーニングのおかげでごつくなった手ではない。 砂浜の白に負けないほどに美しい、色白でほっそりとした子供の手だ。 更に視線を落とせば、多少だが胸に膨らみがあるように見受けられる。 (何だ? 何が起きてる?) ゆっくりと、裸足のまま砂浜に立つ。 青い海、白い砂浜。遠くには白い岩の岬が海に向かって伸びる。 そして今になって気づく。【彼は】自分がズボンをはいていないことに。 着ている服は、男からすれば馴染みのないベージュのワンピースというもの